「手あぶり猫」
本間文江のエッセイ
河北新報夕刊の文化欄「微風 旋風」に連載 からの抜粋
(2008年4月29日) |
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窯を焚く
父の下で焼き物の仕事を始めて以来、私は「猫の手焙り」を作っている。私の家族はそろって猫好きで、猫は身近な動物だった。
ボンという名の猫を飼っていたことがある。オスの日本猫で、家族で黒一点の父と気が合い、 一人と一匹はよく一緒にいた。ボンの昼寝の場所は父の工房だった。父の傍らで、ろくろをひく音を子守唄にし、長くなっていた。
不思議な猫だった。私の粘土遊びの記憶は、オス猫の思い出と重なる。私はボンが大好きで、猫ばかり作っていた。
父と同じ仕事をしようと決めてからここに戻ってくるまでは、ずいぶん遠回りをした。
そんな折、出会ったのが猫の手焙りだった。江戸時代後期に作られた陶器の猫は、首をすくめ背中を丸くして座っていた。
こうして手焙り猫を作り始めた。私の中では、今でもボンがポーズをとっている。手焙り猫との出会いは、古い友との再会であり、風船の紐をそこに結ぶことができたのだ。
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